「避難所における循環器疾患の予防」に関する3学会共同声明
平成28年4月14日からの「平成28年熊本地震」において被災された皆様に心よりお見舞い申し上げます。
循環器系は最もストレスの影響を受けやすい臓器系の一つであり、循環器疾患は、その疾患の性格上、急性期の対応が最も重要な疾患の一つと言えます。阪神・淡路大震災、新潟県中越地震、東日本大震災など過去の震災において、急性心筋梗塞や心不全、エコノミークラス症候群など多くの循環器疾患の発症が増加することが報告されており、発災後に生じる被害を可能な限り減らす減災の視点が極めて重要です。
循環器系は最もストレスの影響を受けやすい臓器系の一つであり、循環器疾患は、その疾患の性格上、急性期の対応が最も重要な疾患の一つと言えます。阪神・淡路大震災、新潟県中越地震、東日本大震災など過去の震災において、急性心筋梗塞や心不全、エコノミークラス症候群など多くの循環器疾患の発症が増加することが報告されており、発災後に生じる被害を可能な限り減らす減災の視点が極めて重要です。
日本循環器学会・日本心臓病学会・日本高血圧学会の3学会は、これまでの大震災を通して得られた循環器疾患に関する多くのエビデンスをまとめて、平成27年3月に「災害時循環器疾患の管理・予防に関するガイドライン」として発刊しています。「平成28年熊本地震」において多数の方が避難所での生活を余儀なくされている現状を受けて、本ガイドラインから「避難所における循環器疾患の予防」に関する情報をまとめて以下に提示させていただきます。
「災害時循環器疾患の管理・予防に関するガイドライン」
- 睡眠の改善
- 不安な状態が続いたり、慣れない環境下に置かれたりした場合にぐっすり眠ることは難しいものです。しかし、災害時こそ睡眠が大切です。避難所では夜間消灯に加えて、アイマスクや耳栓の使用、振動防止のマットレス使用などの工夫をして睡眠環境を改善し、6時間以上の良質な睡眠の確保に努めて下さい。
- 運動の維持
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身体活動として、1日20分以上歩行することを心がけて下さい。特に車中泊などで下肢を下げたまま長時間動かない姿勢をとると、深部静脈血栓症から肺塞栓症(エコノミークラス症候群)が発生し致命的になることがあります。定期的な運動を行い下肢の静脈血栓形成を防止しましょう。
- 血栓予防
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血液の固まりやすさを予防するために、夜間尿が増えても、水分は十分とるように心がけましょう。心臓や腎臓が悪くない方は、水分摂取の大まかな目安は1日1000mL以上です。
- 良質な食事
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できるだけ減塩に努め、カリウムの多い食事(緑色野菜、果物、海藻類)を多くとるようにして下さい。カリウム摂取には、無塩のトマト・野菜ジュースもお勧めです。
- 体重の維持
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震災前の体重からの増減を±2kg 以内に保つことが大切です。震災前より、体重が2kg以上減少した場合には、脱水や栄養障害が考えられます。逆に2kg以上増加した場合には、心不全や慢性腎臓病の悪化がないか、もしくは摂取カロリー過多に陥っていないをチェックして下さい。特に震災後には高齢者の心不全悪化が増加しますので、体重が増加たり夜間の息苦しさなどを自覚された場合は医師の診察を受けるようにして下さい。
- 感染症の予防
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マスクの着用、手洗いの励行(不可能な場合はアルコールによる手の消毒)に努めて下さい。また、感染者の隔離や抗生剤服用を早期から行うなど、集団発生予防に向け、避難所全体で協力して感染症の蔓延を防いで下さい。
- 内服薬の継続
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降圧薬やその他の循環器疾患の内服薬は必ず継続して下さい。被災時に常備薬が持ち出せずに普段飲んでいる薬がわからなくなってしまった場合には、可能な限り、医療機関や避難所を巡回してきた医師に相談してください。
- 血圧の管理
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血圧を測定し、収縮期血圧140mmHg以上なら医師の診察を受けて下さい。災害時循環器疾患発生の引き金の一つが高血圧です。災害高血圧は早めにコントロールしましょう。
- 禁煙の勧め
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喫煙は、血圧を上昇させ、血液を固まりやすくするため、脳卒中や心筋梗塞の大きな危険因子となります。それらの発症率が高まる震災後こそ、禁煙を心がけて下さい。
本共同声明が、避難所における被災者の方々の循環器疾患発症の予防に少しでも役立つことを祈念しております。
平成28年4月18日 |
「災害時循環器疾患の管理・予防に関するガイドライン」班長 日本循環器学会 下川宏明(東北大学循環器内科) 日本心臓病学会 代田浩之(順天堂大学循環器内科) 日本高血圧学会 苅尾七臣(自治医科大学循環器内科) |
日本循環器学会代表理事 小川久雄(国立循環器病研究センター) 日本心臓病学会代表理事 平山篤志(日本大学循環器内科) 日本高血圧学会理事長 梅村 敏(横浜市立大学循環器内科) |